頭の中に種をまく

その時々に読んだもの、見たもの、聞いたものについて考え、紹介します。

哲学

大人の教養娯楽としての高校倫理 - 書評: 『もういちど読む山川倫理』

『もういちど読む山川倫理』を読みました。 高校の倫理の教科書を一般書として装丁を変えたものです。日本の高校教育には哲学の科目がありませんので、哲学的なことを学ぶ機会は、国語の現代文か倫理かしかありません。私は、基礎的な哲学教育は誰にとっても…

少しだけ自由になるための対話の方法 - 書評: 梶谷真司『考えるとはどういうことか』

梶谷真司の『考えるとはどういうことか』を読みました。 この本では、考えるための手段として、哲学対話という営みが紹介されています。具体的な方法はいろいろとありえるのでしょうが、著者は以下のようなルールを推奨しています。 ①何を言ってもいい。②人…

日本で生きていきにくいと感じたら - 書評: 中島義道『非社交的社交性』

中島義道の『非社交的社交性』を読みました。 後半は著者の主催する哲学塾において、他者の考えや「常識」が分からないために参加者たちが引き起こす珍事件の紹介にあてられており、前半は著者自身の現代社会における生きにくさ(と強かさ)が描かれています…

禅とはいかなる宗教か - 書評: 鈴木大拙『禅とは何か』

鈴木大拙の『禅とは何か』を読みました。禅の何を学びたいかによって、満足度に差が出る本だと思いました。 タイトルは『禅とは何か』ですが、そのスコープは禅や仏教にとどまらず、「宗教とは何か」というところまで議論が及びます。その一方で、禅がいかに…

人はなぜ恐怖を楽しむことができるのか? - 書評: 戸田山和久『恐怖の哲学』

戸田山和久の『恐怖の哲学』を読みました。 著者は哲学に関する最新の話題を色々な書籍で分かりやすく紹介しています。『哲学入門』はとくにお勧めです。 書評: 戸田山和久『哲学入門』 (1) - 頭の中に種をまく さて、本書は恐怖をテーマとしつつも議論が多…

人智の及ばない知能を人間がつくるということ

最近よくAIが世の中をどう変えるかということを人と話します。たくさんの仕事がAIで代替されるようになるかもしれないとか、経済効果がどのくらいかとかいったことがテーマになりますが、私はこうした問題にはあまり関心がありません。それよりは、AIがシン…

志向性は情報の受け手がいてはじめて生じる - 書評: 戸田山和久『哲学入門』

戸田山和久『哲学入門』第4章について。この章のテーマは表象で、とくに、表象が何かについて志向することができるという、志向性について議論されます。生きものが(第3章で論じられたように)自然の中に流れるものとしての情報を取捨選択し、独特の仕方…

情報の定義とは何か? - 書評: 戸田山和久『哲学入門』

戸田山和久『哲学入門』の第3章について。この章は、情報がテーマでした。 シャノンは、通信の理論をやりたかったから、もちろん、情報源が次々と記号を生み出していくという事象だけを念頭に置いていた。しかし、もともとは情報源に対して定義されていたエ…

言葉を定義する目的は - 書評: 戸田山和久『哲学入門』

戸田山和久『哲学入門』の第2章について。この章のテーマは「機能」で、第1章で紹介されたミリカンの本来の機能を題材として、哲学の仕事は何かという大きな問いを扱っています。 わたしが面白いと感じたのは、概念分析でない、理論的定義による概念は、同…

機能はいつから機能になるのか? - 書評: 戸田山和久『哲学入門』 (2)

戸田山和久『哲学入門』の第1章について。この章の題は「意味」で、これをいかに唯物論的な世界に位置づけるかということを巡って論が進みます。 話しの中心はミリカンの「目的論的意味論」で、これももちろん非常にスリリングであったのですが、私にとって…

書評: 戸田山和久『哲学入門』 (1)

戸田山和久の『哲学入門』を読み始めました。この本は以前にも読んだことがあるのですが、内容を復習し、よりよく理解したいと思ったので、読み返すことにしました。 タイトルこそ哲学入門ですが、より正確には、現代哲学の入門書です。過去の哲学者は――プラ…