頭の中に種をまく

その時々に読んだもの、見たもの、聞いたものについて考え、紹介します。

書評

意思決定論の数学的背景を知りたいなら - 書評: 木下栄蔵『わかりやすい意思決定論入門』

木下栄蔵の『わかりやすい意思決定論入門』を読みました。 私はもともと多少はオペレーションズ・リサーチを勉強していたのですが、それでもこの本は「わかりやすい」とは言えませんでした。いろいろなツールが紹介されているものの、そのツールがどのような…

台湾の歴史を手軽にしかし真剣に学ぶために - 書評: 胎中千鶴『あなたとともに知る台湾』

胎中千鶴の『あなたとともに知る台湾』を読みました。 少し時間は経ちましたが、この連休中に台湾に行きました。観光のためだけに海外に出かけるのは随分久しぶりのことでした。 せっかく台湾に行くのだからといくつか歴史関係の本を読んでみたのですが、こ…

世界の今を知る - 書評: ハンス・ロスリング『ファクトフルネス』

ハンス・ロスリングの『ファクトフルネス』を読みました。 私は一時期国際協力に興味があり、いろいろと勉強していました。この本には世界の今の姿をどのくらい正確に理解しているかというテストがあって、著者が出題した限りでは、全問正解した人はいなかっ…

想像力の源泉としての神話 - 書評: 後藤明『世界神話学入門』

後藤明の『世界神話学入門』を読みました。 世界の神話はゴンドワナ型神話群とローラシア型神話群という二つの系統に大別され、とくにローラシア型神話群にはプロットに一定の法則性が観察されるという、大変にスケールの大きな仮説が紹介されています。プロ…

大人の教養娯楽としての高校倫理 - 書評: 『もういちど読む山川倫理』

『もういちど読む山川倫理』を読みました。 高校の倫理の教科書を一般書として装丁を変えたものです。日本の高校教育には哲学の科目がありませんので、哲学的なことを学ぶ機会は、国語の現代文か倫理かしかありません。私は、基礎的な哲学教育は誰にとっても…

ストレスを自分の問題として捉えること - 書評: 見波利幸『心が折れる職場』

見波利幸の『心が折れる職場』を読みました。 ストレスに悩む知人から、自分の状態を理解するのに役立ったと勧められました。メンタルヘルスケアに関心があったので、せっかくの機会だからと読んでみました。 内容としては、メンタルヘルスケアの具体的な内…

宇宙の構造についての最新の研究成果を知る - 書評: 松原隆彦『図解宇宙のかたち』

松原隆彦の『図解宇宙のかたち』を読みました。 宇宙の大規模構造について、美しい図をふんだんに使ってわかりやすく説明しています。わかりやすくとは言っても、物理学の最先端の内容ですから、もともとかなりの知識をもっていないと完全に理解することは難…

生き方の表現としての場所 - 書評: 三浦展『100万円で家を買い、週3日働く』

三浦展の『100万円で家を買い、週3日働く』を読みました。 4章から構成されていますが、とくに第1章を大変興味深く読みました。そこでは、7人の実験的な生き方が描かれています。離島に移り住んで、古い家屋をリノベーションしながら町に活気を与える女性。…

自分らしくあるために個を尊重する - 書評: 菅野仁『友だち幻想』

菅野仁の『友だち幻想』を読みました。 流行っていたのでてっきり最近の本だと思っていたのですが、10年以上前に書かれたもので、著者はすでに亡くなっていたのですね。 相手のことをすべて理解し受け容れられるような人間関係は幻想にすぎず、それを追い求…

障害を障害でなくしていくこと - 書評: 菊池良和『吃音の世界』

菊池良和の『吃音の世界』を読みました。 私は吃音をもっているわけではありませんが、言葉が出にくいことはあります。文章を書くことは嫌いでありませんが、小さいころは、人前で話すことが苦手でした。成長してからはむしろ大勢の前で話すことを楽しめるよ…

少しだけ自由になるための対話の方法 - 書評: 梶谷真司『考えるとはどういうことか』

梶谷真司の『考えるとはどういうことか』を読みました。 この本では、考えるための手段として、哲学対話という営みが紹介されています。具体的な方法はいろいろとありえるのでしょうが、著者は以下のようなルールを推奨しています。 ①何を言ってもいい。②人…

リーダーは部下と理念に奉仕する - 書評: 池田守男、金井壽宏『サーバントリーダーシップ入門』

池田守男、金井壽宏の『サーバントリーダーシップ入門』を読みました。 リーダーシップ関連の最近の書籍を読んでみて分かるのは、命令し、周囲の人々を自分が思うように動かして成果を出すタイプのリーダーは、すでに過去の像だということです。組織が社会の…

日本で生きていきにくいと感じたら - 書評: 中島義道『非社交的社交性』

中島義道の『非社交的社交性』を読みました。 後半は著者の主催する哲学塾において、他者の考えや「常識」が分からないために参加者たちが引き起こす珍事件の紹介にあてられており、前半は著者自身の現代社会における生きにくさ(と強かさ)が描かれています…

一人ひとりがリーダーだと自覚する組織の強さ - 書評: 伊賀泰代『採用基準』

伊賀泰代の『採用基準』を読みました。仕事をする上でもっとリーダーシップについて学ぶ必要があると考え、ネットでよい参考書がないかと検索して見つけた本です。タイトルだけでは全くリーダーシップの本だとは思えないので、もし書店で探しただけであれば…

日本人にとっての空気と水 - 書評: 山本七平『「空気」の研究』

山本七平『「空気」の研究』を読みました。すでに古典的な評価を受けている作品ですので読みたいとは思っていたのですが、思うだけでなかなかそのタイミングがなく、今回ようやく時間を確保することができました。 正直なところ、議論に完全についていくこと…

妻の言動はすべて家族のため - 書評: 黒川伊保子『妻のトリセツ』

黒川伊保子の『妻のトリセツ』を読みました。 仕事で毎晩遅くに帰り、妻に家事や子育ての負担をかけているので、それを多少なりとも軽減するすべはないものかと思っていました。もちろん、早くに帰宅できない以上、物理的に手伝いをすることはできません。そ…

あらゆる情報と自分の生き方をつなぐものとしてのメモ - 書評: 前田裕二『メモの魔力』

前田裕二の『メモの魔力』を読みました。書店のランキングで一位になっている本はとりあえず読む、ということをやっているので購入してみたのですが、読んでよかったと心から思っています。 自己啓発の本でたびたび目にするのは、「読むだけで終わりにするの…

禅とはいかなる宗教か - 書評: 鈴木大拙『禅とは何か』

鈴木大拙の『禅とは何か』を読みました。禅の何を学びたいかによって、満足度に差が出る本だと思いました。 タイトルは『禅とは何か』ですが、そのスコープは禅や仏教にとどまらず、「宗教とは何か」というところまで議論が及びます。その一方で、禅がいかに…

現代の子育て事例集 - 書評: 『NewsPicks Magazine vol. 3』

NewsPicks自体は私は利用していないのですが、最近書店でたまたま見かけた『NewsPicks Magazine』を購入しました。「未来の子育て」というテーマに興味を惹かれたからです。 買って正解でした。父親として、子どもをどのように育てるかということは日ごろか…

政治とは何のためのものか? - 書評: 橋爪大三郎『政治の哲学』

議会の議席数とか、日本にどんな政党があるかといったことは、学校の政治経済でも教わりますし、社会に出れば教養として知っておくべきこととみなされます。しかし、なぜ議会というものが生じたのか、なぜ政党というものが生じたのかという質問に対しては、…

複雑な仕事をルーティンとして進めるために - 書評: 水野学『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』

チームとして仕事をする機会が増え、プロジェクトをうまく動かすにはどうすればよいかということを頻繁に考えるようになったので、参考になるかと思って、水野学の『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』を読んでみました。 多くのプロジェ…

人はなぜ恐怖を楽しむことができるのか? - 書評: 戸田山和久『恐怖の哲学』

戸田山和久の『恐怖の哲学』を読みました。 著者は哲学に関する最新の話題を色々な書籍で分かりやすく紹介しています。『哲学入門』はとくにお勧めです。 書評: 戸田山和久『哲学入門』 (1) - 頭の中に種をまく さて、本書は恐怖をテーマとしつつも議論が多…

朝は分析的な仕事をするべし - 書評: ダニエル・ピンク『When』

Daniel Pinkの『When』をAudibleで聴きました。邦訳はありますが、Audibleにあるのは英語の原著のみのようです。 いつ何をどのようにすべきかということを、一日の中で、週の中で、人生の中でといった、さまざまの軸から論じています。とくに面白くまた役立…

体重を落とし頭をすっきりとさせるための6つの習慣

最近、健康診断を受けてきました。どこかが悪いというわけではなく、年に一度の定期検診です。 結果の詳細はまだわかりませんが、一つ驚いたことがあります。体重です。高校生のころからずっと、60-62kgくらいで推移してきました。大学生のときには体づくり…

データサイエンスを学ぶための最初の一歩 - 書評: 竹村彰通『データサイエンス入門』

データサイエンスというものの全体像を見渡したくて呼んでみました。私は統計学の勉強は多少してきましたし、それを仕事などで活用してもいます。しかし、データサイエンティストと呼ばれるほどの技能はもちません。 本書によれば、データサイエンスには「デ…

ファイナンス入門の入門 - 書評: 朝倉祐介『ファイナンス思考』

流行のビジネス書ですし、私自身もファイナンスに興味があったので読んでみました。 もともとファイナンスは中小企業診断士の問題集などである程度は学んでいたこともあり、内容はすっと入ってきました。そうでなくとも、本書はファイナンス入門の入門といっ…

統計学の基礎を学ぶための参考書

最近いろいろな業界の人と出会う機会がありますが、数字を頻繁に扱う仕事をしている人でも(いまどき、数字を使わない仕事のほうが少ないでしょうが)統計学の基礎的な部分さえ知らないことがあって驚かされます。 統計学の考え方は、仕事や学術研究に限らず…

石川理紀之助生誕の地でその克己の生涯に思いを馳せる

十年近く、ずっと秋田を訪問したいと思っていたのですが、これまでその機会がありませんでした。ところが、転職してすぐ、不意にその機会をえることができ、いままさにその地にいます。 なぜ秋田を訪問したかったかというと、そこが石川理紀之助の生地だった…

巨大企業はどのように人間の欲望を糧にしたか - 書評: スコット・ギャロウェイ『the four GAFA』

スコット・ギャロウェイの『the four GAFA』を読みました。GAFA(google、apple、facebook、amazon)がそれぞれどのような理由により怪物的なサイズの企業へと成長したかが論じられています。 たとえばappleであれば、スティーブ・ジョブズが死によって半ば…

志向性は情報の受け手がいてはじめて生じる - 書評: 戸田山和久『哲学入門』

戸田山和久『哲学入門』第4章について。この章のテーマは表象で、とくに、表象が何かについて志向することができるという、志向性について議論されます。生きものが(第3章で論じられたように)自然の中に流れるものとしての情報を取捨選択し、独特の仕方…