頭の中に種をまく

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言葉を定義する目的は - 書評: 戸田山和久『哲学入門』

 

戸田山和久『哲学入門』の第2章について。この章のテーマは「機能」で、第1章で紹介されたミリカンの本来の機能を題材として、哲学の仕事は何かという大きな問いを扱っています。


わたしが面白いと感じたのは、概念分析でない、理論的定義による概念は、同じ単語を使っていても違う定義をもつかもしれないし、そのいずれがよりよい定義であるかといったことは必ずしも問えないという議論です。


統計力学エントロピー概念と情報理論エントロピーのどっちが、われわれの乱雑さの概念を正しく反映しているかって問わないのと同じだ。


確かに、分野が違えば同じ言葉を違う仕方で使っていても不思議はありません。しかし、ミリカンが「本来の機能」をあえて理論的定義と呼ばねばならなかったことは、概念分析と理論的定義との違いが、学問の世界においても必ずしも判然とはしていないことを示しているのではないでしょうか。まして、哲学者でない人々がこの差異を意識しているとはとても思えません。哲学をするのでなくとも、言葉の理論的定義のようなことをすることは、他の学問分野においても、あるいはビジネスなどにおいても、多々あることに思えるのですが。


科学史で用いられる「通訳不可能性」という言葉を思い出しました。異なる背景と異なる目的とをもった複数の人が、同じ言葉を同じように使っているとは考えにくい。


これは、新しい思考に触れられるチャンスでしょうか、それとも単にコミュニケーションを阻害するだけのものでしょうか。前者とできるよう努力したいものです。

 

 

哲学入門 (ちくま新書)

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