頭の中に種をまく

その時々に読んだもの、見たもの、聞いたものについて考え、紹介します。

企業が理念を掲げる意味 - 書評: 山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』

哲学と美術史学との素養のあるコンサルタントによる、なぜ経営に美意識が必要かということを論じた本です。議論は非常に明解で、議論の一部を要約すると以下のようになるかと思います。

 

経営には、クラフト、サイエンス、アートの三つの要素が関わります。クラフトとは成功や失敗の蓄積による経験的な知恵のことです。コンサルティングの黎明期は、業界で経験を積んだ老練の人々がコンサルタントとして活躍し、企業の業績向上に貢献しました。

 

しかし、クラフトは経験的なものですから、獲得するのに時間がかかります。そこでサイエンス、つまり、ある程度の知力があれば習得できる、学問的知識のパッケージが作られるようになりました。サイエンスによる枠組みは、理解してしまえば自ら経験することがなくとも使用できるものなので、コンサルタントの育成もその応用も容易になりました。

 

その結果、現代においては、クラフトやサイエンスといった要素は多くの企業にとって当たり前のものとなりました。そして、それらを保有する企業間の優劣は、それら以外の要素によって左右されるようになっていると、著者は指摘します。それがアート、すなわち美意識です。機能も価格も同じなら、より個々人のライフスタイルに合うもの、より個々人が自身の生活に取り入れたいと思うものが選ばれるはずです。そうした、消費者の自己実現を後押しする製品を生み出し、またその企業の従業員に働く目的を与えるもの、それこそがアートです。

 

転職を機に「よい会社とはどのような会社だろうか」ということを考えることが習慣となったこともあり、大変刺激的な一冊でした。

 

 

 

また、同じ著者の『外資系コンサルの知的生産術』は、この本を読むひとつ前の段階として、仕事の質をどのように高めるかということを考えるために大変役立ちます。