生きた経営戦略を学ぶ - 書評: 三枝匡『戦略プロフェッショナル』
人に勧められて読みました。経営のあり方を小説のような形式で書いたもので、理論ばかりでどのように現実に立ち向かえばよいのか結局わからない、という経営書にありがちな弱点が巧みに回避されています。厚みはそれなりにありますが、ストーリーがあるのでたいへん読みやすかったです。
学んだことは多かったのですが、一点だけ、とくに印象に残った部分を引用してみます。
分厚い経営戦略書を買って、複雑な戦略モデルを理解しようと取り組んでも、ややこしい思いをしたあげくに、実際の仕事では使えない。そんな経験のある人も、もう一度基本に戻って、プロダクト・ライフサイクルのセオリーだけは「完璧に」理解されることをおすすめする。これは、あなたの仕事上の判断にモロに使えるからだ。
ここに記されているように、この本では必ずしも多くの戦略理論やフレームワークが紹介されているわけではありません。その一方で、プロダクト・ライフサイクルと、プロダクト・ポートフォリオとをしっかりと理解することが推奨されています。
私はこの両方とも一応の知識をもってはいたのですが、この二つが一体のものであるとは考え及んでいませんでした。詳細な説明は本書を参照いただくとして、かいつまむと、以下のように言えると思います。
- プロダクト・ライフサイクルの若い段階にある市場は、成長率が高いため、製品はプロダクト・ポートフォリオの上方に位置する。
- 新規に投入された製品は、当然シェアが低いので、プロダクトポートフォリオの右側に位置する。
- 上記二点により、新市場の新製品はプロダクト・ポートフォリオの右上方、つまり「問題児」の位置にある。
- プロダクト・ライフサイクルか進み、市場の成長が鈍化すると、製品はプロダクト・ポートフォリオ中で下方へ移動する。このとき、シェアが増加すれば左へ移動し、「スター」を経て「金のなる木」へ至る。一方、シェアが増えなければ右にとどまり、「負け犬」となる。
プロダクト・ライフサイクルを、このようにプロダクト・ポートフォリオ上での移動と捉えると、それぞれを別個に考えていてはできない戦略的判断が可能になるように思います。これらが経営戦略上重要とされている理由が、ようやく腑に落ちました。
このような戦略的な手法が、それがどうして重要なのかということから丁寧に具体的に説明されており、経営理論の生きた姿を垣間見るようでした。
戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)
- 作者: 三枝匡
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2002/09/01
- メディア: 文庫
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