頭の中に種をまく

その時々に読んだもの、見たもの、聞いたものについて考え、紹介します。

自分らしくあるために個を尊重する - 書評: 菅野仁『友だち幻想』

菅野仁の『友だち幻想』を読みました。


流行っていたのでてっきり最近の本だと思っていたのですが、10年以上前に書かれたもので、著者はすでに亡くなっていたのですね。


相手のことをすべて理解し受け容れられるような人間関係は幻想にすぎず、それを追い求めすぎることは、かえって人とのつながりを窮屈で不快なものにしてしまう。より深い人間関係を志向しつつも、合わない人とは無理に合わせようとはせず、またそうせずにすむ社会をつくることが望ましい。これが、本書のメッセージだと思います。


周囲からの同調圧力を論じた本としては山本七平の『「空気」の研究』がありますが、こちらが同調圧力のために判断を誤ってしまうという実利的な面を主眼としているのに対し、『友だち幻想』の方は、同調圧力から生じる精神的な苦しみや葛藤をテーマとしているように思います。心の問題であるだけに、個人にとって切実な悩みを扱っていると言えるでしょう。


同調圧力はある程度普遍的な力学のように見えますが、とりわけ日本では非常に強力な力です。仕事や旅行でいろいろな国を訪れ、またフランスで働いてもみて思うことは、日本には型にはまった人ばかりだということです。それは、私自身もそうです。このようでなければならないという規範があって、それに合わなければ親や友だちや周囲の人から叱られ、非難されてしまう。似ていて互いに理解し合えるということは、望ましいことでありながら、度が過ぎると人の生き方を狭めてしまう。こうした不幸に対する警告の書として、あらゆる年代のあらゆる立場の人にとって有意義な考えが述べられた一冊だと思います。

 

 

友だち幻想 (ちくまプリマー新書)

友だち幻想 (ちくまプリマー新書)

 

 

 

「空気」の研究 (文春文庫)

「空気」の研究 (文春文庫)