頭の中に種をまく

その時々に読んだもの、見たもの、聞いたものについて考え、紹介します。

リーダーは部下と理念に奉仕する - 書評: 池田守男、金井壽宏『サーバントリーダーシップ入門』

池田守男、金井壽宏の『サーバントリーダーシップ入門』を読みました。


リーダーシップ関連の最近の書籍を読んでみて分かるのは、命令し、周囲の人々を自分が思うように動かして成果を出すタイプのリーダーは、すでに過去の像だということです。組織が社会の変化に対して柔軟に姿を変えていかねばならない時代には、個々人の多様性と能力が最大限に発揮されねばなりません。そのためには、構成員一人ひとりが自ら考え行動するようになることが必要です。


反対に、こうした状態が実現できていれば、リーダーが箸の上げ下げまで指図する必要はありません。むしろ、構成員の能力を開花させる手伝いをすることこそ、よい組織をつくるためのリーダーの役割となります。


これが、サーバント・リーダー、奉仕する者としてのリーダーです。その奉仕の対象は部下や従業員ですが、これはその先に、自分自身の理念の実現という目標があるからこそできることであり、さらに、その理念が構成員にとっても目標として共有されているからこそ、リーダーがリーダーとして認められるのです。「リーダーは部下に認められることによってなるものだ」というこの考え方は、なるほどと膝を打ちたくなるものでした。


この本には、こうした理論面と同時に、資生堂の改革においての池田守男氏の実践が紹介されています。サーバントリーダーシップの捉え方には池田氏と金井氏の間にも微妙な差があり、そのぶん理解がやや難しくなっていますが、それはどう解釈するかを自ら考えるためのきっかけとなるとも言えましょう。何より、経営者がどのように実践できるかという観点は大変勉強になりました。


 

 

サーバント・リーダーシップ入門

サーバント・リーダーシップ入門

 

 

日本で生きていきにくいと感じたら - 書評: 中島義道『非社交的社交性』

中島義道の『非社交的社交性』を読みました。


後半は著者の主催する哲学塾において、他者の考えや「常識」が分からないために参加者たちが引き起こす珍事件の紹介にあてられており、前半は著者自身の現代社会における生きにくさ(と強かさ)が描かれています。哲学に魅せられる人の生態を明らかにすることを基調としつつも、テーマは多岐にわたり、中にはどうして一緒に収録されているのか分かりかねる部分もありました。しかし、そうした部分も含めて、哲学をするということが(少なくとも著者のような人にとって)どういうことなのか、アイロニカルでしかも切実な思いが綴られて、心揺さぶられるものでした。


たとえば息子がウィーンの日本人学校で体験した理不尽な精神的束縛や、インターナショナルスクールで得た自由についてのエピソードは、日本で生きることが大変な苦痛を伴う人のあり方として大変鮮烈なものでしたし、私自身も多分に共感するところでした。


教師としても反面教師としても、生き方に迷ったときに手を伸ばしたくなる一冊でした。

 

 

 

非社交的社交性

 

一人ひとりがリーダーだと自覚する組織の強さ - 書評: 伊賀泰代『採用基準』

伊賀泰代の『採用基準』を読みました。仕事をする上でもっとリーダーシップについて学ぶ必要があると考え、ネットでよい参考書がないかと検索して見つけた本です。タイトルだけでは全くリーダーシップの本だとは思えないので、もし書店で探しただけであれば、決して見つけられなかったでしょう。書店にも、リーダーシップの棚ではなく、採用の棚にありました。タイトルで損をしてしまっているように思えてなりません。

 

さて、その中身ですが、大変勉強になりました。働き方、仕事に対する意識に大きなインパクトを与えるもので、読んでよかったですし、もっと早くに出会っていればと思いました。これから社会に出る人にも、すでに社会に出て働いている人にも、ぜひ読んでもらいたい一冊です。

 

最大の学びは、たとえ肩書がリーダーでなくても、成果が求められる場面ではリーダーシップが必要だということです。この考え方は、リーダーシップというものの理解を大きく変えさせてくれるものでした。リーダーシップは人を率いることですが、それは責任を引き受けて、自分で考え、自分で行動することです。これによって、人は自分一人で達成できないことも達成できるようになる。

 

その一方で、リーダーシップはチームの成員にも求められます。トップにリーダーシップがあっても、成員がチームの課題を自分事として受け取らなければ、チームは課題解決のための力を発揮できません。たとえ自分に部下がいなくとも、目の前にある状況を何とかしてよくしようと考え他人に働きかけていく。そうしたメンタリティも、リーダーシップだと言えるでしょう。

 

そうして著者は、日本人にこうしたメンタリティが欠けていることを問題視しています。組織を、ひいては社会をよりよくしていくためには、行動が必要です。その責任を個々の成員が負おうとする集団は、とても力強く、魅力的に思います。

 

 

採用基準

採用基準

 

 

同じ著者による『生産性』もお勧めです。日本の企業に欠けているのはリーダーシップと生産性だというのが著者の持論で、『採用基準』で前者を、『生産性』で後者を論じています。近いうちに、こちらも紹介するつもりです。

 

 

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

 

 

日本人にとっての空気と水 - 書評: 山本七平『「空気」の研究』

山本七平『「空気」の研究』を読みました。すでに古典的な評価を受けている作品ですので読みたいとは思っていたのですが、思うだけでなかなかそのタイミングがなく、今回ようやく時間を確保することができました。


正直なところ、議論に完全についていくことはできませんでした。多少古い著作だということもあり、常識として説明なく引用されている時事的なことがらが一体どういう意味をもつとして紹介されているのか、分かりかねるところが多かったからです。しっかりと理解しようと思えば、田中角栄とかカーターとかの時代の出来事を、言及されるたびに調べて意味づけしていかなくてはいけません。これはなかなか骨の折れる作業で、私にはちょっとその元気はありません。


ただし、そうしたエピソードの理解は大変でも、全体としての議論を追うことはできます。日本には近代化以降理性的な議論よりも「空気」が重んじられる空気が生じていること、新しいことに乗り出そうという「空気」が生じても現実という別の「空気」によって水を差されるので革新的なことが起きないこと、などが論じられています。これは今の世の中にもよく――あるいは、KYという言葉が流行った今の世の中にこそよりはっきりと――生じる事態でしょう。


惜しむべきは、こうした「空気」をいかに霧消させるかという対処法が論じられてはいないということです。「空気」にいかに水を指すかを考えながら、日々の理不尽に立ち向かっていきたいものです。

 

 

「空気」の研究 (文春文庫)

「空気」の研究 (文春文庫)

 

 

妻の言動はすべて家族のため - 書評: 黒川伊保子『妻のトリセツ』

黒川伊保子の『妻のトリセツ』を読みました。


仕事で毎晩遅くに帰り、妻に家事や子育ての負担をかけているので、それを多少なりとも軽減するすべはないものかと思っていました。もちろん、早くに帰宅できない以上、物理的に手伝いをすることはできません。それでも、精神的な面から、何かしらサポートができないかと考えています。


その一方で、妻がどのようなことになぜストレスを感じるかということが、よくわかっていませんでした。私がストレスを感じるポイントと、妻がストレスを感じるポイントとが大きく異なっていて、よかれと思ったことがなかなか想定した通りの反応を引き出さない、ということがしばしばです。


そうした中で、この本を見かけました。


様々な実際的アドバイスが紹介されていますが、その多くは同じ要因に基づいているようです。それは、女性にとって家族の安全が最優先で、行動や判断の基準がそこにあるということです。


面白く思ったのは、たとえば、女性がとりとめのない不満や愚痴を話題にすること。本書では、これも、女性が家族の安全のためにあらゆる情報を収集しようとしているからだ、と説明しています。完全に信じることはできませんし、人によって違いが大きいのではないかと思いますが、このように考えておくことだけでも、女性への接し方はかなり変わるのではないでしょうか。

 

 

妻のトリセツ (講談社+α新書)

妻のトリセツ (講談社+α新書)

 

 

あらゆる情報と自分の生き方をつなぐものとしてのメモ - 書評: 前田裕二『メモの魔力』

前田裕二の『メモの魔力』を読みました。書店のランキングで一位になっている本はとりあえず読む、ということをやっているので購入してみたのですが、読んでよかったと心から思っています。


自己啓発の本でたびたび目にするのは、「読むだけで終わりにするのではなく、行動に移さねばならない」ということ。この点で、『メモの魔力』はまさに、行動への強い動機を与える本です。メモを取るということが、単なる勉強とか仕事術といったレベルではなく、生き方そのものとして論じられています。第五章の題は、そのものずばり、「メモは生き方である」というものです。


紹介されている方法は、至ってシンプルです。


①インプットした「ファクト」をもとに、
②気づきを応用可能な粒度に「抽象化」し、
③自らのアクションに「転用」する。


普通のメモはこの①のところで終わってしまいますが、その事実を抽象化し、さらに自身の課題に対して転用する。こうしてあらゆる情報と自分の問題意識とを関連付けて考えることが、メモを自分の生き方にまで影響させるものとしているのでしょう。


私も、帰宅途中にこの本を読み終えたその足で、早速新しいノートを買いにいきます。

 

 

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

 

 

北極星という指針を見つけられること

私は星のことには詳しくないのですが、基本的な星座の形くらいは分かります。ただ、形はわかっても、それが空のどの方角にあるのかということは分かりません。なので、たとえば小熊座はどちらの方角に見えるかといった質問を受けても、分からないと答えるしかありません。

 

しかし、夜中に家路についていると、ふと、オリオンが見えることに気づきました。これは数ある星座の中でも最も見つけやすいものではないかと思います。それでも、星座を見つけたというので少し嬉しくなって、あたりをぐるりと見回してみると、北斗七星がありました。そこから目を少し転じると、カシオペアもありました。

 

さて、北斗七星やカシオペアから北極星を見つけられるということを、ずいぶん昔に聞いたことがありました。北斗七星を基準にあたりをつけてみると、確かに明るい星があることに気づきました。カシオペアを出発点にしてみても、同じ明るい星にたどり着きました。自分で北極星を見つけたのは、はじめてのことでした。

 

北極星を見つけるというのは、遠い過去においては人間が生きていく上での基本的なスキルの一つだったかもしれません。それは、スキルと言うにはあまりに簡単なものですが…

 

今では、北極星を目印にすることが必要になる場面など、まずありません。もっと別の様々の手段で、たどり着くべき地点にたどり着くことができます。

 

それでも、北極星を見つけたとき、少しの、奇妙な安心感を覚えました。あの星を目印とすれば、帰るべきところに帰れるという安心感に近いものでした。

 

以来、夜道を歩くときには、自然に北極星を探すようになりました。生きるための基本的なスキルをもっておくということは、それがたとえ現代にはほとんど意味をなさないものであっても、拠り所を作るという意味では有意義なものに思います。