頭の中に種をまく

その時々に読んだもの、見たもの、聞いたものについて考え、紹介します。

少しだけ自由になるための対話の方法 - 書評: 梶谷真司『考えるとはどういうことか』

梶谷真司の『考えるとはどういうことか』を読みました。


この本では、考えるための手段として、哲学対話という営みが紹介されています。具体的な方法はいろいろとありえるのでしょうが、著者は以下のようなルールを推奨しています。


①何を言ってもいい。
②人の言うことに対して否定的な態度をとらない。
③発言せず、ただ聞いているだけでもいい。
④お互いに問いかけるようにする。
⑤知識ではなく、自分の経験にそくして話す。
⑥話がまとまらなくてもいい。
⑦意見が変わってもいい。
⑧分からなくなってもいい。


こうしたルールによって、自分の考え方の枠組みから離れることができます。すると、少しだけ自由に考えられるようになる。自由を獲得するということが、哲学対話の一つの大きな目的として挙げられています。


こうした自由な対話は楽しいものであり、実践することで人と人とのコミュニケーションが促されます。事例として、生徒の発言が活発になった小学校や、上司と部下の間の交流が密になった会社のことが紹介されています。


相手の話をよく聴くこと、そしてその上で適切な問いかけをすることという、当たり前のことが語られているのですが、それが日常の会話では当たり前にはできません。そこで、いくつかのルールを導入する。自由を縛るものとして捉えられがちなルールが、実は自由を保障するものであるという観点も、面白いものに思いました。


私自身は、哲学対話そのものではありませんが、その考え方を意識しつつ話す時間を、家族と設けるようにしてみました。考えることを促すために適切な質問をすることはなかなか難しいですが、会話から得られる満足度は確実に大きくなったと思います。妻が家族の今後のことをどのように考えているか、深く知ることができましたし、私自身も、将来のことをより具体的に考えられるようになりました。


人と自分自身をよく理解するための基礎となる、意義深い一冊でした。